早慶戦でスタメンを努め、いまやチームに欠かせない主力の1人としてコートを駆け巡る嘉手川。
相手に密着するハードなディフェンス、サイズ差をものともせず飛び込むリバウンド、思い切りのいいシュートや豪快なルーズボール、スタッツだけではすべてを表現できない彼の献身的なプレーは、見ていて気持ちがいい。
そのプレーは中国で行われたAUBLでも相手を唸らせ、リーグ戦ではチームに怪我人が続く中で存在感がこれまで以上に高まっている。4年目にしてチームになくてはならない存在になった選手は、どのようにしてここにたどり着いたのだろうか。
ビデオ係からスタートした大学バスケ
全国の強豪校から世代トップクラスの選手が集まる関東の大学バスケ界。嘉手川は地元・沖縄から勉強と高いレベルでのバスケットボールを両立させたいという強い想いを持ち、早稲田大学への進学を決意し、推薦で入学を果たした。しかしバスケットの強豪校から来た選手たちが主力を務める早稲田大学でAチームに入り、さらにコートに立つことは容易ではない。
入部当初はBチームからのスタートだったが、Aチームの公式戦に応援に行った際、与えられた仕事はビデオ係。試合の撮影はスカウティングのために重要で、新入生なら誰もが担当する仕事だ。しかし応援に加われないことへの寂しさと悔しさも感じた。だがこの経験が彼のバスケットボール魂に火をつける。
「絶対に4年生になったら、自分がこのコートに立って活躍してやろうと思いました」
この経験が、腐ることなく、誰よりも自分自身を信じ抜いて頑張り続けるきっかけとなった。
Aチームへの道は地道な積み重ねで切り開いた。まずBチームの選手としてDリーグや東京都の大会に参加していくようになる。徹底したのは、泥臭く身体を張り続けることだった。目立たない場面であっても、ボールが転がれば真っ先に飛び込み、ゴール下では体格差のある相手にも果敢にスクリーンアウトを仕掛ける。自分がこれまでやってきたことをBチームでも続けた。地道に、だが確実に積み重ねた献身的なプレーは少しずつ評価につながっていく。「評価されたのは本当に徐々に、という感じ」というが、己の信念に沿って続けてきたプレーはチームの首脳陣から高く評価され、コーチ陣からの推薦を受けてAチームへの昇格を勝ち取った。自らの実力と熱意が扉をこじ開けた瞬間だった。

突きつけられた壁と、それを乗り越えた国際試合
しかし、Aチームに合流したからといって、すぐに華々しい活躍ができたわけではない。2024年の2年時にはチームは2部リーグに所属。1部に復帰した2025年はリーグ戦を65年ぶりに制し、インカレでも準優勝を果たしたが、主力が固定されていてベンチメンバーが割り込む隙は少なかった。そして最終学年の今季も春先はそこまでプレータイムが多かったわけではない。その理由はシンプルに「試合経験が足りなかった」からだという。
「観客やいろんな人に注目されているような環境で、自分のプレーをやりきる、自分の強みを活かしきるっていうところが、本当に自分の中で課題になっていました。そこがプレータイムの伸びなかった理由です」
試合経験の少なさから試合、特に大舞台になると緊張に襲われ、本来の実力を発揮しきれない。それが課題だった。「特にそれを感じたのが早慶戦」だったという。今年は早慶戦で栄誉あるスタメンに起用された。日本一の規模の大学定期戦である早慶戦では、3000人の観客による声援が凄まじい。そこで立ち上がり早々にファウルを重ねてベンチに下がることになってしまったのだ。自分が信じてやってきたことには自信があったが、試合経験は数を重ねなければどうにもならない。それがよく現れた出来事となった。
それをどう克服するか、打破するきっかけは中国だった。

AUBL・中国遠征での激闘で掴んだ自信
嘉手川が選手として一皮むけ、プレータイムを大きく伸ばす契機となったのが、中国で開催されたアジア大学バスケットボールリーグ(AUBL)への参戦だった。
チームは愛媛県で行われた7月の新人インカレに3年と4年も帯同し、大会期間中の1週間に合宿を張って、チームとしても強化に努めた。そうやって挑んだAUBLは見事グループリーグを突破。下山と松本が大ブレイクを果たし、大きな注目を浴びたが、スピーディーなハイスコアリングゲームを仕掛ける早稲田というチームそのものも現地の観客を魅了し、大会3位に輝く。嘉手川は3位決定戦でグループリーグでは敗れた清華大相手に15点、アシスト4、スティール4と大活躍。EFF(総合効率)でも22という数字を叩き出し、勝利に貢献した。
大観衆の中で躍動する姿には、早慶戦で緊張からミスをしてしまった嘉手川の姿はもうなかった。ディフェンスで粘り、隙をついてゴールにアタックする姿は堂々として輝いていた。
そして未知のチームとの対戦を重ねて、改めて自分の原点を再確認する。
「相手がどんなバスケットを展開してくるかわからない状況だからこそ、自分たちが磨いてきたバスケットボールをいかに信じ切ってやり通せるかがすべて」。
AUBLはここまで自分が大事にしてきた「信じる」ことの重要さを確信する機会にもなった。
こうして鍛えられたのはプレーだけではない。国際大会では食事やコンディショニングも難しい。激しい試合を連日戦い抜く中で、国際試合における食事の準備や過ごし方について学んだ。大型台風の接近で試合の延期もある困難な状況だったが、「合宿のようでした」と仲間と寝食を共にし、知恵を絞り合いながら結束を深めて乗り越えたことも、大きな経験と財産となっただろう。

そしてチームを背負う主力へ
中国遠征から帰国したチームには、過酷な夏を乗り越えた者特有の落ち着きと安定感が感じられた。嘉手川はリーグ戦ではスタメンとして定着。これまで同様、泥臭いディフェンスをはじめ、自分の信条とするプレーでチームのために働いている。
「大学でバスケットボールをやると決めた以上、自分のその『やりきる力』がどこまで通用するのかを確かめたい。関東の大学バスケで戦うことを通じて、確かな自信をこのリーグで掴んでいきたい」
胸に秘めるバスケットボールへの信念は、シンプルで力強い。
連覇のかかる早稲田大はリーグの滑り出しは悪くなく、首位争いをしていたが、前半戦を終えてチームは危機に立たされている。下山と三浦という主力を怪我で欠き、元々人数の少ないチームは1巡目の終盤に連敗し、スタメン個々のプレータイムが増えて大きな負担がかかっている状況だ。その苦境にあって、嘉手川の存在感はディフェンスに加え、得点面でもエースの松本や主将の城戸に次ぐ勢いでチームを支えている。1勝で大きく順位が変わる混戦が続くが、この先も信念のもとにプレーを続けて結果を手繰り寄せていく姿に注目だ。

嘉手川太智/かでかわ たいち
177cm/70kg
開邦高
(2026.8.30インタビュー)


