上のチームとも下のチームとも競り合うハードな2ヶ月半
「上からも下からも、狙われる」
学生コーチの言葉を借りれば、今リーグの中央大はそんな存在だった。
開幕戦で東海大を下して幸先の良いスタートを切り、序盤は最高5位につける。専修大とは66-58の8点差、日本大とは65-68の3点差、大東文化大とは78-82の4点差と、上位チームとはいずれもあまり差のない試合を繰り広げた。
第9戦の専修大戦を見てみると、立ち上がりに先行リードして入り、追いつかれはしたものの、その後は接戦となり、4Qまでワンゴール差で粘る奮闘。最後は相手の高さに苦しみ、66-58でタイムアップとなった。しかし後半に失速してしまった昨リーグの対専修戦(80-63)と比べると、春のチャンピオンに最後まであきらめずに食い下がり、この1年のチームの成長ぶりが感じられた。
一方、真ん中から下のチームから見ても、一つの目標となっていたのが中央大だ。上を目指すのに目安となる位置にいて、留学生がいない分、高さでも競り合える。第2戦の拓殖大戦では前半はリードされ、その他でも僅差の試合が多く、そういう意味でも「上からも下からも狙われる」というのは当たっていた。
ただし、2巡目は苦労した。天皇杯の休止明け以降は、敗戦が増えていった。控えのガードである#13小川(2年・SG)が長期欠場となったことでローテーションがうまくいかなくなり、勝負弱さが見え隠れするようになっていく。後半になって調子の上がっていった東海大には2点差(63-65)、また下位の明治大にも同じく2点差で破れる(68-70)など、安定しない試合が続いた。ただし、大崩れはせずに踏みとどまり、14勝12敗の7位で終了。苦しんだものの、2チーム増えた1部で、昨年と同じ7位フィニッシュとなった。
エースとして「チームを勝たせる選手」を目指した1年間
エースの#21渡部(4年・SF)は昨年から今年にかけ、チームや関東大学界を代表するエースの一人になった。
春のトーナメントではこんな風に語っていた。
「試合における大事な1本は、去年から先輩たちに任されてきたところです。でも今年は“チームを勝たせる選手”になりたいと思っています」
「チームを勝たせる」
それが今年の彼の中で核となるマインドであり、存在意義だ。
「去年はチームのために点を取ること、もちろんそれだけではないんですが、得点そのものが自分の気持ちの中で大きな割合を占めていました。とにかく点を取るということが重要だったんです。今年はそこよりも、チームを勝たせることが第一だと考えています。チームの戦術を遂行することを意識し、そのために精神的なところ、例えば自分が声をかけることも大事です。それが去年とは変わっているところですね」
チームの点取り屋という立場から、チームを勝たせるため、周囲の選手にも影響を与えていく存在に。そんな変化への意識が感じられる4年目の言葉は重い。
「勝たせるというのはまず結果もそうですが、コートでもベンチでも、自分がどう振る舞うかということが、重要になってきます。それは今後のバスケット人生にも関わる大事な経験だと思っているし、それこそ本当に意識しているところです。ただ、決められればいいけど、自分も完全じゃないので、ミスをします。それをみんなでどうカバーしあうかが大事だし、それこそがアマチュアスポーツの醍醐味です。単純なミスを許してはいけないのですが、何かあってもカバーし合うことでチーム力は上がっていくし、それができるチームにしていくことを4年生たちで考えています」
自分が勝負どころを決めることはもちろん、自分が囮になることで周囲の選手が決める状況を生み出すことでもいい。声掛けも大事だ。勝つためのルートのどこかに自分が関わり、影響力を発揮できれば、すなわち「勝たせる」ことは達成できる、そんな理想があった。
後半戦は勝てない時期が続き、コミュニケーション不足を反省
リーグ後半はいろんなことがうまくいかずに苦しんだ。特に2巡目の最初の東海大戦からの4連敗は堪えたはずだ。それは目指す「チームを勝たせる」からかなり遠ざかった試合内容になった。
「2巡目は1巡目には勝った東海大との対戦で始まり、接戦で破れました。もともと2巡目に苦手意識があったんですが、チームのセットプレーや自分の得意なプレーが読まれてくる中で負けが続き、自分たちのバスケットを見失っているシーンもたくさんありました。勝てなかった時期は、下級生やスタッフとのコミュニケーション、戦術の考え方等々、いろんなことでうまくいかず、オフコートでの取り組みが足りなかったと思っています」
特に足りなかったと感じているのはコミュニケーション面だ。大学バスケでもっとも重要なのは4年生とされる。そして4年生がどうあるべきかは、チーム改革を唱えた2020年の主将・樋口、それを受け継いだ2021年の主将・町井ら、代々の4年生から学んできた。そして自身が4年目になり、先輩たちがやってきたこと、言ってきたことの真髄をようやく実感しているといってもいいが、それでも「まだ大事なことに簡単に気付けるような大人ではなかった」と反省する。
「これまでの先輩たちが言い続け、次につないでいこうとしてくれたことの大切さ、その意味を、4年目になってひしひしと感じています。そして、4年生たちでも話し合いましたが、2巡目は勝つことだけではなく、来年のことを考えて、下級生に積極的に経験を積ませようという方向で考えが一致し、荻野ヘッドコーチとも共有しました。自分たちもそうして経験をさせてもらい、継承してきたし、それがいかに大切かも学びました。今度は下級生に伝えるのが自分たちの仕事だと思います。そのためにも、チームでコミュニケーションを取れるような状況をしっかり作ることを考えていきます」
最終戦で流した悔し涙を、インカレで喜びに変えるために
リーグ最終日、中央大は早稲田大と対戦。既に入れ替え戦行きが決まっていた早稲田大と最後は競り合いになりつつ、なんとか72-69で逃げ切った。この試合、チームハイの15点を挙げた渡部は、最後にうなだれ、苦笑いともなんともつかないような表情で目をうるませていた。
「今日は最後のリーグ戦ということで、4年生が全員ベンチに入っていました。特にこれまで試合に出られていなかった4年の2名をなんとかコートに立たせて終わろうとしていたんですが、最後をシーソーゲームにしてしまって…そこは本当に4年生の責任だと思うのでその悔しさで涙が出てしまいました」
エースとして自覚と責任を感じながら、ここまでやってきた。いろんな想いの入り混じった涙のようにも感じられた。果たせなかった2人の4年生への約束は、「インカレで」と自分にもう一つ課題を与えてリーグを終えた。
険しい顔が多かった4年目のリーグ戦、多くのものを背負い、プレッシャーと自分らしさ、両方を追い求めた苦闘はあと一つの大会を残す。中央大を背負い、最後に何を残すのか、数字に残るパフォーマンスだけではない、取り組みと戦いが続く。