3年目の開眼は国際経験が引き金に
2019年以来のリーグ優勝を目指す大東文化大。
主将の#4菊地(4年・SG)、#34バトゥマニ(4年・C)ら4年生がチームを鼓舞し、プレーでも引っ張るが、今リーグでひときわ存在感を放っているのが、3年の#25山内だ。昨シーズンは秋リーグ戦の後半に怪我があり、力を出しきれなかった。しかし今季は春から「琉人がいい」と西尾監督も期待をかけてきた。
チームは秋リーグ開始直前、#9田中(2年・PF)が膝の負傷で今季の出場は叶わなくなった。チームにとっては痛手だが、そんなことを感じさせないような、強気のプレーを連発し、4年生とともにチームを支えている。元々もっていた身体能力、シュート力が光るのはもちろんだが、そこに強い“気持ち”が乗っているのが、プレーから見える。
その根源となっているのは、春から取り組んできたアンダー代表の活動だ。
今季は春先からU22の代表として合宿を重ね、韓国学生代表との李相伯杯(韓国・ソウル/5月)や、FISUワールドユニバーシティゲームズ(中国・成都/8月)などに参加してきた。
「李相伯杯は、自分にとって初めての海外チームとの試合で、アウェイ戦。1日目は受けに入って自分たちのバスケットができず敗戦し、2日目でアジャストして勝ち切ることができました。でも最後の3試合目はいい試合はしたけれど負けてしまって…。そこで初めて、代表としていろんなチームのエースを相手に試合をするのは難しいな、と実感しました」
山内にとっては、初めて尽くしが続いた。これが“初”の韓国の大学生代表との試合における感想で、次の“初”は世界の大学生との対戦。ワールドユニバーシティゲームズでは、それ以上に感じることがあった。
「自分はもっとできる」というプラスの刺激
「合宿は春から行ってきていて、メンバーも基本は変わっていませんでした。だから目指したのは、合宿でやってきたことをしっかり完成に持っていくというところだったんです。実際、技術では負けていないところがありましたが、世界相手だと圧倒的にフィジカルの差がありました。そこでバラバラになって自分たちが崩れてしまうシーンもあり、そこが大きな反省点でした」
世界を目の当たりにして、一番大きく感じたのはフィジカルの差。それを国際試合で体感したことは大きいが、それ以上に刺激を受けたのは意識の部分だという。
「世界大会に出て、通用した部分と通用しなかった部分がありました。でも僕個人としては、本当に大きな刺激をもらいました。そこで感じたのは、“できない”という感覚ではなくて、“自分はもっとできる”ということでした」
プレーだけではなく、各国の選手のオフコートの過ごし方を見るだけでも、新しい視界がひらけた。
「トレーニングルームでの振る舞いだけでも感心させられた選手もいました。特にある選手は、既にGリーグなんかも経験している選手でしたが、トレーニングをする姿を見ただけで自分に何が足りないのかが見えたし、大きな感銘を受けました」
他国の選手のトレーニングを見るだけでも、自分とはまったく違う世界を感じたという山内。そして、自分にはまだやれることがあると悟った。
「昨年までは弱気というか、チーム内にはBリーグを経験している先輩もいて、その中で自分の良さを出すことに難しさを感じていました。もう少しできる部分があるのに、それができなかった。でも今年、上級生になって意識が変わり、代表として海外経験をさせてもらえたことで、自分には伸びしろしかないし、プラスに捉えられる部分が本当にたくさんあると感じました。そこが、今のリーグにも出ていると思います」
新しい世界を目の当たりにしたことによる視野の広がり。そしてそこで見えた世界との差は、絶望するものではなく、埋められる差だと思えた。自分に足りないものがたくさんあると自覚した機会だったが、それは逆にモチベーションになった。
「失敗はたくさんありますが、上を見ようとすると下を見ている暇がない。本当にそれに尽きます。今も足りないなと思うとこともありますが、『じゃあどうしようか?』と考えるのが本当に楽しくなりました。それが自分の成長につながっていくのかなと今は思っています」
学んできたことをチームにも還元するべく、前を向く
課題があっても、それを「楽しい」といえるほどの刺激は、これまで得たことのなかった快感だ。それを大学のチームにも還元したいと考えている。まずは秋のリーグ戦だ。
「代表活動は、同じく選ばれてチーム内でリーグ戦直前まで他に抜けている選手、スタッフもいて、この大会はチーム作りとしてはギリギリの状態で入りました。大変なところもありましたが、それを言い訳にしてはいけないと思っています。そして代表で学んだことをもっと還元しなくてはいけません。リーグ戦を通して成長して、チームにプラスに働くよう、代表組が(代表チームのスタッフだった)西尾さんも含めて動いているのかなと思います」
リーグ戦が始まったのは、バスケット界のみならず、日本がW杯でのA代表の奮闘に沸いていた頃だった。山内と同じく、今季は李相伯杯やワールドユニバーシティゲームズのスタッフとして帯同してきた西尾監督は山内のプレーぶりを見て言う。
「アンダー代表に入ったのだから、彼は次にA代表を狙うような選手になっていかないといけない」
西尾監督が最初にアンダー代表のスタッフとして関わったのが、青山学院大時代の比江島 慎(現B1宇都宮)だが、その比江島は長年の世界との苦闘の果てに、W杯で輝きを見せた。そこに続く選手が大学界から育っていって欲しいという思いはあるだろう。
A代表はまだ山内の中に明確に芽生えている目標ではない。だが、「もっと上へ」という思いはある。
「僕自身はアンダー世代として世界大会を経験しました。今回のW杯を見ましたが、そういう場所に立ちたい気持ちは確かにあります」
そのために、見るべきなのは常に「上」だ。
「下を見ている暇なんかないんだって、世界を見て、もっと頑張らないといけないと本当に感じました。本当にそこに尽きます。いろんなことを考えますが、またそれも楽しいです」
リーグ戦が進むにつれ、チームには怪我人が増えてきた。主力が一気に欠ける状態の中、連敗もあるが、それでも山内はチームの好不調に関わらず、目を引く活躍を続けている。1巡目後半の9・10節の連敗は苦い結果だったが、彼の言葉を借りるなら「下を見ている暇はない」。失敗を恐れず、下を見ず、ただ上だけをむいて、残りの試合を戦い続けるだけだ。
山内ジャヘル琉人
191cm/84kg/仙台大附属明成