トーナメント緒戦敗退も、胸にあるのはやりきったという想い
「4年間で一番楽しい試合でした」
ロッカールームで今シーズン最後のミーティングのあとに姿を現した進は、軽く微笑んでそう答えた。
インカレトーナメント緒戦、青山学院大は今季2部でライバルとして戦ってきた早稲田大と対戦し、4Qに追いつかれて逆転負けを喫した。試合を終えた直後は悔しそうな、それでいて笑みも浮かべながら仲間や下級生たちに「来年頼む」と挨拶をして回ったのが印象的だった。
「入学以来苦しいシーズンが続いてきましたが、最後のシーズンでチームを1部に上げるという使命は達成しました。やるべきことをやって結果は既に出していて、今日の試合が終わった瞬間は負けたということはもう変わらないし、4年間やりきったという思いもあったので、そういう顔に見えたんだと思います。でもそのあとに苦しい、悔しいなあという気持ちはやっぱりわいてきて、ロッカールームではたくさん泣きました。だから今は少しすっきりした気持ちです」
試合展開としては最高の入りをして前半リードしたが、後半に得点能力の高い早稲田大に詰められた。最後はワンゴールを争う展開だっただけに悔しくないはずはない。それでも、やることはやった。
「途中までは自分たちのペースで運べたので、そこは良かったです。インカレという大舞台でこのような試合をして、プレーしていて4年間の中で一番楽しい試合だったし、出しきった、やりきったといえる試合になりました」
プライドをかけた両者のぶつかりあいは、インカレらしさ満点の見応えある試合だった。
もがく中でも目標を見失わず、最後に噛み合った歯車
比江島 慎(現B1宇都宮)をはじめ数多くの日本代表やプロ選手を輩出し、大学界で一時代を築いた青山学院大だが、ここ数年は苦闘の時間が続いた。2022年は2部降格、2023年はチームとしてもおよそ20年ぶりの2部リーグで5位とふるわなかった。2024年もリーグ序盤に危うい試合を見せていたが、そこから持ち直して快進撃を見せると、2部2位でリーグを通過。入れ替え戦で拓殖大に2連勝し、見事1部昇格を決めた。主将の#2漆山を中心によくまとまり、チーム全体が活気に満ちているのも印象的だった。
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そして今季の進は大黒柱として奮闘する姿が何より頼もしかった。2、3年の頃はプレータイムが伸びない時期や精彩を欠く試合もあったが、それは新しいことへの挑戦にもがいていたからでもある。
「昨年、一昨年とあまり存在感を発揮できない時期があったのは、3番ポジションに挑戦させていただいていたことも大きいと思います。今までやったことがなかったので探りながらになってしまい、自分の本来の力を出せずにいました。でもそれまで5番ポジションしかやったこともない選手がドリブルをつけるようになったりしたのは、3番に挑戦をさせていただいたおかげです。前監督に感謝しています」
なかなか成果につながらない時間が続くと、嫌になってしまうこともあるだろう。しかし苦しい時期にも折れず、勝負の年に活躍を見せたのは、目印になるものがあったからだという。ひとつは、一緒に戦ったことのある仲間たちの姿だ。
「確かにモチベーションが下がった時期もあります。でも自分は李相佰杯代表に選ばれて(2023)U22の経験をさせていただきました。そこで一緒だった仲間が1部で戦っているのを見て力をもらっていたし、そういう舞台で後輩たちを戦わせてあげたいという気持ちも強く持っていました」
そしてもうひとつが、今季部長兼ヘッドコーチに就任した竹田謙氏の存在だ。青山学院大のOBでありプロ選手としての経験も持つ彼は、後輩たちの力になりたいと母校に戻ってきた。
「最終学年になってOBの竹田さんがヘッドコーチとして来てくださったことも、再びモチベーションを上げる要因になりました。新しいポジションに挑戦して迷ったり悩んだりした末に、今年は竹田さんが今のポジションを与えて下さったことに感謝しています。竹田さんは本当に謙虚な方で、それが普段からも人柄としてにじみ出ています。言い方が合っているかどうかわかりませんが、自分から見ると“年の離れたお兄ちゃん”みたいな存在でした。もちろんバスケット面では経験が豊富で引き出しが多くて、いろんなことを教わりました。本当に最終学年に竹田さんに指導者としてめぐり会えたのは幸せだったと思います。そんなふうに最後の最後にいろんな歯車が噛み合った4年目でした」
竹田ヘッドコーチに話を聞けば、「自分は何もしてない」「自分に力がないので」といつも謙遜したが、選手からは厚い信頼を得ていたことが進の言葉からわかる。社会人やプロ選手など、さまざまな経験をしてきたからこそ、伝えられることもあっただろう。インカレの最後のミーティングではこう言われたという。
「『プロの道に行くとしても行かないとしても、今日のような経験が人生として役立ってくると思うから、つらいときもこういう負けや、そして勝ったときのことを思い出して頑張ってください』と竹田さんはおっしゃいました。この言葉は心にずっと留めておいて、どの道に進むにしても思い出しながら頑張っていきたいと思っています」
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最高の同期と歩み、人として成長した4年間
最後に、大学の4年間を振り返ってもらった。最初に出てきたのは、最高の仲間に出会えた感謝だ。苦楽をともにしたチームメイトたちとの絆は何物にも代えがたい。
「やっぱり仲間がいて良かったです。一言で言うと最高の同期。苦しい時も楽しい時も共にやってきて、誰よりも意思疎通できて、悩みがあればまず同期に相談をしました。本当に4年間支え合ってきたいい仲間です。今年は成果も出てきて、みんなでバスケットをしていて一番楽しかった1年でした。後輩も本当によくやってくれて、広瀬(#12)や新井(#3)、が成長したし本当にすごく頑張ってくれました。星賀(#25)もめちゃくちゃ跳ぶ選手なので注目してもらいたいです。来年はきっともっと強くなると思います」
また、さまざまな人や環境に揉まれて、バスケット面だけではなく人として成長できたこともはずせない。
「バスケットボールに関しては高校生のときにインターハイには出場しましたが、自分がそんなにできるとは思っていなくて、U22のような大きな舞台に選ばれたことは感謝しかありません。実際、代表ではぜんぜんプレイタイムがもらえなくて、上には上がいることを痛感しました。でもそういった環境に刺激を受けて、最後のシーズンにチーム全員で大きな舞台に立ち、真剣勝負できたことは本当に自分にとって今後も活かせる大事な経験です。そして何より、大学でバスケットをしたことで人として何段階も成長させてもらったと思います。そんな貴重な時間を過ごせたのが大学バスケでの4年間でした」
大学バスケのステージは、心身ともに子どもから大人へ大きな変化が訪れる時期だが、そこで信頼しあえる仲間を得てさまざまな経験をし、成長を実感できるのは幸せなことだ。進はもちろん4年生たちにとって、この先の人生を歩んでいく中でかけがえのない経験として、さらなる成長の一歩になったに違いない。