「少しでも後輩に何かを残せたら」最上級生として、エースとして
インカレトーナメント緒戦、対筑波大との戦いを87-71でタイムアップを迎えた山梨学院大は、観客席に挨拶したあとベンチ前に並んで行う一礼も、コート上でサッと終えてしまうミーティングも、これまでと同じ淡々としたルーティンでこなし、コート上で2024シーズンの解散を迎えた。そしてそのあと、主将の#90野溝がチームメンバーたちと次々とメンバーたちと抱き合い、言葉を交わす姿があった。
ブロックステージを2勝で勝ち上がり、進んだトーナメントステージ。相手は昨インカレのベスト4決めで対戦し、そして敗れた筑波大という因縁の対決だった。怪我人に苦しんだ筑波大はこのインカレもベストメンバーで臨めていないが、それでも最初から勢いのあるプレーで山梨学院大に勝機を掴ませなかった。しかし山梨学院大も一時20点近い差がついてが気持ちを切らさず戦い続け、野溝もらしいスリーポイントを沈めて詰め寄る時間帯もあった。試合を振り返ってもらうと、結果的には前向きな言葉になった。
「この前の入れ替え戦で負けて来季は2部降格が決まりました。そこから新チームに移行というわけではないけれど、自分がスタメンから外れることになりました。その状態で去年よりは筑波大に通用したなという、そういう試合だったと思います。ここまでのグループステージの試合もインカレはやはり特別な舞台だし、その中で自分がどれだけチームを引っ張れるかということや、どこまで自分のプレーが通用するのかということを意識してやってきました。4年間でインカレには2回出場することができましたが、自分の成長を確かめる2回であり、成長を実感できる舞台だと思います。その中で自分が何を残せるかをずっと考えていたんですが、少しでも何か後輩に残せていたらいいなと思います」
昨年の筑波大との対戦結果は58-73。野溝はスリーポイント2本を含む13得点。今年はベンチスタートながら20点。スリーポイントは3本だった。また、リーグ戦でも筑波大には初の勝利をあげてもいる。そういう意味では数字の上でも、またチームリーダーとして最後まで責任を持ってプレーし続けたことでも、「成長」という言葉には納得できる。今年はワンエースに近い形でプレーし続けた姿は、後輩のみならず周囲にも強い印象を残したことは間違いない。
入学時には想像もしなかった4年間を過ごした大学バスケの時間
昨年までチームを牽引してきた4年生が一気に抜けた今年、それでも山梨学院大は春のトーナメントはベスト4に食い込んだ。3部から短期間で上がってきたチームがいきなり結果を出すことは稀であり、さらに昨年の主力がごっそり抜けた新チームでの躍進ぶりには驚かされた。しかしリーグ戦は一転、怪我人や欠場者もいる中で勝てない2ヶ月半となった。長時間プレーし、得点王を獲得した野溝が悔しい思いをしたことは間違いないが、それでもチームが成長していく中では必ず経験するステップだと前向きに捉える。
「今季は特にリーグ戦がタフでした。ただ、今までこのチームはトントンと上に上がってきましたが、どんなチームにも停滞するシーズンはあると思うし、今年がそうだったのかなとも感じます。だからこそ、これを乗り越えたら後輩は必ず強くなると思うので、今年は苦しかったけれど来年からの山梨学院も注目してもらいたいです。個人的には精神的につらいところが多かったのは確かです。でも常に40分出るつもりでずっとプレーしていましたし、点を取って、チームのためにという気持ちでいました。スキル的なものは下級生にも上手な選手はたくさんいるし、自分より上手い選手は多いですが、自分が戦い続けることでメンタリティや姿勢を見せたかったし、見せたつもりです」
長時間タフにプレーし続ける姿や、クラッチタイムでの決定力、絶妙なフローターなど、プレーでも姿勢でも見ていて伝わるものは多かった。昨年は4年生たちに混じってボトムアップする存在だったが、今年はマークが自分に集中する中で数々のシュートを決め、その結果、リーグ戦では得点王を獲得。また苦境にあっても笑顔を絶やさないのも印象的だった。
大学の4年間は3部・2部・1部の3つの部を駆け上がる形で経験した。チームはまさに破竹の勢いで1部に到達したが、これほど多彩かつ達成感を得られる上昇経験はなかなかできるものではなく、野溝自身にもその充実感はある。
「自分が入学したときには3部だったので、そこからどんどん上がっていって考えられないステージでバスケをさせてもらって、いい経験になったし、自分の限界を越えられた感覚があります。山梨学院大はチームメイト、先輩や後輩にも恵まれて、すごく特別な場所になりました。4年間で一番印象に残っているのは1部に昇格した瞬間。そしてこの前の入れ替え戦で降格してしまったときですね。どちらも自分にとっては本当に忘れられない試合になりました」
まさに喜びも悔しさも最大限に体験した4年間といえるだろう。大学バスケ界に山梨学院大あり、と最初に印象付けたのは一学年上の武内(現B1広島)の世代だが、今年は野溝がそれを引き継ぎ、宿題を残して次世代に渡した。停滞の次には再びの前進があると信じて。
「後輩には1部に戻るということはもちろんですが、インカレのベスト8やベスト4を目指して戦って欲しいですね。学生にとってかけがえのない大会だからこそ、結果を求めて戦い続けて欲しいと思います」
そんなメッセージを残して自身は次のステージに進む。停滞と前進はワンセットだ。この先も待ち構えるであろうさまざまな課題を彼らしく乗り越え、笑顔で道を切り開いていって欲しい。