これが河村勇輝か、と感じた人も多かったかもしれない。
10/23の東海大ホームゲームの第1戦、専修大との試合で叩き出した数字は、27分の出場で17点、6リバウンド、10アシスト、4スティール。ブロックも1つついた。周囲を活かす鮮やかなパスや、鋭いドライブからの得点、また、そこから得たフリースローは7/7だ。相手がガードへの執拗なディフェンスも見事だった。
圧巻ともいえる数字だが、得点に関しては結果的についてきたもの、という。
「自分で点を取ろうとしていたというよりは、ドライブをしていけば相手のヘルプやディフェンスを崩せると考えました。でもヘルプディフェンスが来なかったため、そのままレイアップまでいけたので、得点が出たというところです」
確かに専修大は全体的に大柄で、その分河村のキレある動きにディフェンスが対応しきれなかった面は見えた。一方、河村自身は勝利をよしとしつつも、失点の多さを課題に挙げる。
「チームとしては60点以下に抑えて勝つということがプランではあるので、そういった中で72点決められてしまったということには、改善の余地がたくさんあると思います。相手のシュートが当たったということもあると思うんですが、相手のレベルが高くなれば、それに合わせてディフェンスの強度も上げていかないといけません。そうやってちゃんと完封できるよう、ディフェンスのインテンシティを落とさないようにやっていかないといけないと感じる試合でした」
試合の中味に焦点を当てて冷静に振り返る姿が河村らしい。確かに失点を見れば、60点以内を目指す東海大にしては取られすぎているし、4Qの始まりまでは専修大の良さが見える場面も多かった。しかし河村のプレーが観客に与えたインパクトは大きく、声を出した応援こそできないものの、何度も客席から感嘆のため息が聞こえる場面があった。
河村は#11大倉(4年・G)が欠場中の今年、トーナメント、リーグ戦ではスターティングガードを務める。リーグ戦に入ってからこの試合まで、そこまで目立つ数字を出す試合はなかったが、今の段階で意識しているのは特にコントロール部分だという。
「トーナメントから変わったのは、ゲームコントロールをするために、アシストの方に重きを置いているところです。自分がドライブとかで引きつけて、仲間の選手に点を取ってもらうというところにシフトして練習してきました。そういった意味では得点面ではリーグ戦では伸びてはいないんですが、アシストのところであったり、ディフェンスの強度を意識しています」
ならば専修大に対する10アシストは納得いく数字ではないだろうか。切れ込んでのパスはもちろんだが、スリーポイントラインの外で待つ#24松崎(3年・F)へのアシストなど、変幻自在なパスさばきは鮮やかの一言だった。
高校時代の華やかな活躍から、河村への周囲からの期待は大きい。しかし、本人は大学で新たな自分の武器の獲得と確立を強く意識している。
「高校の時はとにかくトランジションオフェンスなど、相手との駆け引きをするというより、イケイケドンドンという感じだったんです。でも今はゲームの流れを読んで、今自分が行くべきなのかとか、自分に今どういう役割があるのかといったことを認識しながらゲームをコントロールしていく力がついてきた感覚はあります。高校の時は本当に流れというか感覚でやっていたところを、ちゃんと考えながらコントロールするところは、大学に入って良くなっているところだと思います。
ポイントガードとして自分が先頭で引っ張っていくために、自分の背中を見て後ろの選手が何かを感じてもらえばいいなと思っています。だから、まだまだシュートの精度はそんなに良くないですが、それは今、チームにとっての自分の役割ではありません。アシストとディフェンスが自分の仕事で、どんどんアシストをしながらディフェンスの強度を上げて、みんなのコミュニケーションをしっかり図れる架け橋になりたいですね」
高校時代とは違う自分、新しいバスケットの考え方やプレーを身につけるのが、大学に来た目的の一つだということは、入学時から一貫して語っている。プレータイムをシェアしつつの状況では、外部にその進化は一見伝わりにくいものはあるかもしれない。しかし、本人には手応えはある。
そして、そこに欠かせないのは2つ上の先輩である、大倉だ。バスケットに関して意気投合し、常に話し合ってる様子が伺えた。その大倉が不運にも2月に負傷して出場がかなわない間は、シーズン前に2人で話し合ってきたことを、コートでは河村が体現していく立場にある。
「彼からは本当にたくさんのことを学んでいます。この2年間、高校ではなかったプレースタイルや、バスケットの考え方を得て、プレーの幅を広げることができています。コートに彼がいなくても、試合の前も試合の後も、その試合を通して何が必要だったのかということについてフィードバックしてもらいます。だからこそ成長もできていると思います」
同じコートに立っていなくても、彼らは二人三脚で歩んでいる。
最後に、この1年、他のカテゴリーに比べて試合がままならず、苦しんでいる大学バスケットについて聞いてみた。
「本当であれば天皇杯とか、プロに一番近いカテゴリーででも、プロといい勝負をしたり、勝つというところをお見せすることが今年の目標であり、その目標を達成することができればまた大学のバスケットの価値も上がってくるなと思っていました。残念なことに今年はコロナ禍で戦うこともできず、不完全燃焼に終わってしまいました。※
でも大学バスケは高校とは違った、大人らしさもあり、学生らしさもある、アグレッシブなプレーが見られます。プロと学生の間、フィジカル的なバスケットも見られるし、学生っぽいプレーも見えるという部分に関しては、バスケットファンのみならず一般の方にも楽しめるカテゴリーじゃないかなと思っています。そこを見て欲しいですし、見てもらえるように僕たちも頑張りたいと思います」
大学バスケットの魅力を広く伝えるには、東海大のような発信力のあるチームの活躍や、彼のようなインフルエンサーは欠かせないものとなってきている。この先も常に注目を浴びることになるだろうが、大学界を代表する存在として、チームにも、彼にも期待がかかる。そして、目指すものを最終的にどのような形で表現してくれるのか、ただそれを楽しみに見ていきたい。
※東海大は県予選を突破していたが、コロナ禍により大会運営方式が変更となり、天皇杯出場は叶わなかった。