【オータムカップ2020・コラム】プロ意識のある選手集団へ~2024年に向けた中央大学の挑戦~#12樋口雄気(中央大・4年・主将・G)

関東オータムカップ2020

初戦で筑波大を相手に粘り強い戦いを見せた中央大。一度離されかけたが再び追い上げるシーンもあり、選手各々の良いプレーが出てこの先を期待させる試合となった。1週を置いた早稲田大戦でも勝負際を制して勝利。チャレンジマッチに向けても上がり調子だ。

1年で1部に復帰してきた中央大は、昨年から下級生主体のチームとして成長の途上にある。だが印象的だったのは、数年先、創部100周年の節目に日本一になれるようなチームとしての土台作りを行いたいという、主将・樋口の姿勢だ。追加で取材を申し込み、話を聞いてみた。

伝統や文化を部に残すことに価値を見出す

初戦後の会見で新鮮に響いたのが、「創部100周年となる2024年に、日本一に」という言葉だった。これはOBや第三者に言われたのではなく、自分で考えたことだという。大会前に掲載された学連の取材でも同様のことを答えている。1924年に創部した中央大学バスケットボール部は、過去さまざまな名選手を排出し、数々の勝利を打ち立ててきたチームである。ここしばらくは試練の年も経験してきたが、100年を区切りとして日本一となる姿を見せるというのは、並々ならない決意だ。なぜそこに至ったのか、そこには歴史と伝統に対するリスペクトがある。

「中央大学のバスケットボール部がいつできたのかは知っていました。僕自身、歴史や伝統ということに高校・大学でも大きな価値があると感じていました。そして節目として2024年に日本一の姿を見せるのが、歴史や伝統に返せること、やるべきことだと思ったんです。だから目標として設定しました。そういう意味で今年はここからの4年間の礎を作るようなシーズンにしていきたいと考え、チームの土台作りとしていろんなことに取り組んできました。コロナ禍という特殊なシーズンではありますが、目標をぶらさずにできてきていると感じています」

昨年度は2部を経験し、チームとしても下級生主体となった。1年で1部に復帰はしてきたが、そんな中で3つのことを考えていたという。

「大きく挙げると、まず自分たちの代になったときにどうするかということです。中央大学は縦割りの要素が強いので、代が変わると次の年何をすればいいのかわからなくなってしまうところが少なからずあります。それをなくす必要があると思いました。そして何としても1部に上がらないといけないという焦りもありました。さらに自分は高校時代からスカウティングに取り組んでいたこともあって、大学でもスカウティングの班の主なところを任されていたんです。そうした働きを通して、裏方も含めて、組織としてより精度を上げていくためにはどうすればいいのかという、そんなことを考えていました。

4年全員の思いとして、今シーズンに勝ちきって終わりたい気持ちはもちろんあります。でも、同期に感謝しているのは、僕がそんな風に考えてやりたいと思っていることを、やりたいようにやれる場を用意してくれているというところです。自分たちの代で試合で活躍して勝って終わりたいというのは、誰しもあると思います。でもそれよりも伝統とか文化にこだわった姿勢を4年自らが作っていって、後輩に還元していこうという思いに賛同してくれて、それで今年のチームの雰囲気ができあがってきていると思います。一歩譲るじゃないけど、そうした環境を作ってくれているのが、同期たちなんです」

学生であってもプロ意識を持てるよう、チーム全体の意識改革に取り組む

樋口の目指す伝統や文化を根付かせるとは、具体的にどのようなことだろうか。大きなものとしては選手たちにプロ意識を持たせるということだという。

「学生レベルのバスケットでは、まだ中央大学はタレントという部分では他の強豪にかなわないところはあります。でもその分、もっともっと意識を持ってバスケットに本気になることが重要なのではないかと思っています。そこに必要な要素は2つあります。一つはタレントがいないならタレントを作ってやろうという精神です。2年の#21渡部、#28濵野はいいものを持っています。僕は彼らを本当に全力で1部のスターにしてやろうと思っていますし、タレントの有無は1部では戦えるかどうかを左右します。だからプロ意識を植え付けるというか、意識させるようにして日頃の練習には取り組んでいます。渡部たちも、試合終盤になると誰かに頼りたくなるシーンが出てしまっていたのが昨年でした。でも今年は“チームの顔は●●だよ”、と僕自身が指定し、そういう人がシュートを打って外して負けても、それはしょうがないという文化を作ろうとしています。実際、それはうまくいっていて、下級生の言動も変わってきました。エースと位置づける選手たちは、昨年に比べて精神的にタフな状態になっていると感じます」

そして、それを支える縁の下の力持ちに、学生が主体でなれるかどうかということにもチャレンジしています。学生がバスケットに打ち込む最後の4年間で、自らが一歩引いてやるというのは簡単にはできないことだと思っているんです。でもそれをやってこそ中央大学が優勝できる、そんな思いを全員が持って練習していこうとしてきました」

今年は春に自粛期間もあり、今までのように自由にバスケットができる環境にはならなかった。それについてはどこのチームもいろいろな苦労が伺える。しかし樋口はその期間も「自粛に関係なく、バスケット部として前進ができて良かった」という。確かに実際にバスケットをプレーできない環境は、プレーの積み重ねという点では勝敗に影響することは認める。試合数が少ないことは決していいことではない。しかし、「良かった」といえるのは、この自粛期間にこそ、チームとして取り組むべきことに正面から向き合えたからだ。

「僕たちが目指していることは、練習がなくてもできたことが多かったんです。人間関係や伝統、文化の構築に関しては、自粛期間でもできることが山程ありました。ミーティング回数を増やして集中して取り組み、いつもなら発言しない人の分も時間を割くことができたりして、チーム全体の文化を作るという意味ではかなり前進できました。それはすごく大きなことです。バスケットの戦術のためのミーティングではなく、人間の成長や人間関係の構築ができたことで、練習中に発言するのが僕だけではなくなり、下の学年の次世代を継承してくれる選手たちも、どんどん発言するようになっていきました。これは本当にうまくいっているという確かな実感があります」

他にも、これまでは樋口が管理してきたスカウティングやウエイトの管理といったことも、個々人に委ねていくことを行った。自分で自分を管理することも、プロ意識の醸成につながる。

未知のウイルスの流行は社会を変容させ、今までできていたことが容易にできなくなるという苦悩を多くの人に与えた。だが、樋口はその機会を活用し、それまでできていなかったことを行う時間として使うことで、プラスに転じさせた。人として、組織として高みを目指すために必要なことに取り組めたことこそ、今年最大の収穫ではないだろうか。

#28濵野(左)、#21渡部(右)たちにはスター候補として大きな期待をかける。

立てた目標をぶらさず、やりぬく姿勢で力を尽くす決意

4年として、主将として今年はチームのために力を注いでいるが、それができるのは彼自身の目標が明確で、順を追って行動してきているからでもある。1年のときから「チームのために何ができるか」をずっと考えていたという。

「大事なことですが、なかなか具体的に何をするかというのが難しいのが、“チームのために”だと思います。そこを真剣に考えてきて、自分はスカウティングという道を見つけることができました。次は、それをBチームも含めて、チーム全員が自分のやるべきことを見つけられるかが鍵になってきます。大会などに入ってしまうとどうしてもAとBに分かれてしまうし、それぞれのモチベーションも異なってきます。でもここにヒントを作ってあげることで、より高いレベルの中央大学になると思うんです。とても難しいんですが、そこはチャンスと考えています。理想に見合う形を考え、全力を尽くすつもりです」

強く、明確な口調で語る樋口だが、彼自身がここまで自分で目標を立て、進んできたからこそ、今チームを導くにあたってもブレがないのだろう。山形南、そして中央大学を選んだのは勉強もバスケットも高いレベルで両立したかったからだ。大学3年のときには将来の目標を固め、部活動と平行して平日はもちろん、週末も長時間の勉強に時間を割いた。4年の夏も就職活動に注力してミーティング以外の練習は副キャプテンの伊藤(#7)や3年のキャプテン#15町井、学生コーチが主導してくれたという。

「就活との両立は監督やコーチからも心配をされましたが、僕としてはかなり密度が濃く全力で楽しめました。やってよかったと思っています。そして進路を確定させた今は、残りの時間をチームのために使い、全力で取り組むだけです。中央大学の将来像を描くのはもちろん簡単なことではないし、僕自身中央大のカラーを捉えきれているとは言えません。でも、今年ベースを作った上で、各学年の色が乗ってくると思っているし、今は本当に大事な核の部分を模索している段階です。その中で一番大事なのはやはり、アマチュアではなくプロ集団になることだと思います。競技をする以上、中央大学の評価になるのは勝敗です。だからこそ結果を残せる集団になっていく必要があるし、そこはシビアに追求していきたいと思います」

樋口が取り組もうとしていることは壮大にも見えるが、大事なことはそれをチーム一人ひとりが理解し、取り組もうという意識だろう。26名の部員が一人ずつ一つのことに取り組めば、26のことが前進し、それを積み重ねていくことで目指す地点に近づいていくはずだ。2024年は決して遠い未来ではない。そのために今年の中央大学がどんな土台を作ってどこまで前進できるか、そして次世代にどう続いていくのかを見守り、応援したい。それは大学バスケット自体の発展にもつながっていくはずだ。

人間関係構築には#35清水、また3年のキャプテンとして#15町井(写真奥)など、下級生にもチーム作りに欠かせない面々が出てきている。

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